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税理士法人 京阪総合会計事務所

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2018年7月4日

相続税対策の明暗を考える

名義預金と税務調査をめぐって

昨年から相続税対策セミナーが旺盛に開催され
ている。マスコミも特集し、書店やネットには相
続税に関する攻略本(?)コーナーまでできてい
る。しかし、不安をあおる活況ぶりには異常を感
じることもある。金融機関などは相続対策の相談
としながら、相談者の資産状況を聞きだしてビジ
ネスターゲットをあぶり出すのに懸命だ。
バブル期に相続対策で生命保険や投資を勧めら
れる例が多かった。結果として、バブルが崩壊し
て相続税がゼロになったという笑えない話もある。
アベノミクスの行方やその本質を見極め、賢明な
選択を指導したい。それには、顧問先にどれだけ
寄り添って親身な相談を続けるかが鍵であろう。
財産の帰属をめぐる名義判断
新聞・雑誌では「名義」をめぐる取り扱いの特
集記事が目立つ。実際、代表的な名義預金は税務
調査の主眼となっている。
名義預金とは、実際には被相続人の預金である
にもかかわらず、親族らの名義で預けている預金
である。ポイントは、通帳や使用印鑑の管理状況
を総合的に勘案して判断するところにある。贈与
契約書があれば大丈夫という解説も一部にあるが、
契約書や贈与税の申告に伴う実態があるかどうか
が問題となることも予測されよう。逆に、贈与実
態がないにもかかわらず贈与契約書を作るという
ことは、重加算税賦課対象の「仮装・隠蔽」の根
拠を自ら作ることになりかねないことをも認識す
る必要がある。
同様に株式や投資信託も同じだ。株式は証券会
社の調査で解明し、とりわけ銀行の送金の記録や、
外交メモが判断の基準とされる。
同族株式も同様で、株主総会議事録や招集記録
など、会社法で定める株主とのやりとりがまった
く残っていない場合には、怪しまれる可能性が高
い。特に、株券発行会社であるにもかかわらず名
義人が株券を持っていないときは、問題とされる
ことが多い。古い会社では、実際に株券を発行し
ていながら、代表者がすべての株券を預かってい
たというケースもあった。ここまでくると、株式
不発行会社に定款変更を勧めなかった顧問税理士
の力量が問われる。
調査官と税理士のなれあい
名義預金の対応について通り一遍の理解で顧問
先や税務署と対応した税理士の例がある。これは
名義預金だけでなく税務調査手続など税理士の不
勉強から来る所為の一端が示されている。
税務調査は、被相続人の妻Aと3名の子(B、C、
D)に対し行われた。当初、申告はBが所轄税務
署と相談しながら作成したのだが、申告期限1カ
月前になって準備に取り掛かったことから、結果
としてかなり雑な申告を行っていた。
税務調査を行いたいという税務署からの連絡は
Bが電話で受けた。Bは知人から紹介された税理
士に調査対応を求めたが、税理士は税務代理権限
証書をAからのみ受領して税務署に提出し、他の
相続人からはもらっていなかった。
調査官は国税通則法に定める事前通知をA以外
の相続人に行わず、税理士にも行っていなかった。
この点で、税務職員の税務調査開始手続が守られ
ていないばかりか、税理士もそれを問題にするこ
ともなく対応していた。そのため納税者らは国税
通則法についての知識はなく、調査は適法に開始
されたものと信じていた。
さらに調査官は、相続人らに対する調査を前に
銀行調査をしたい旨を税理士に伝え、税理士は納
税者の意思を確認することなくこれを承諾した。
妻Aの税務代理人の行為はAの回答とみなされる
が、他の相続人にとっては無予告調査が実施され
たことになってしまった。
税理士と納税者の〝攻防〟
銀行調査の結果、調査官は名義預金についての
問題点を税理士に通告し、税理士は納税者に修正
申告をするよう求めた。税理士と納税者(B、C、
D)の間で以下のような問答が行われた。
税理士 「家族名義預金の印鑑はひとつである。
亡父の名義預金だ」
納税者 「家族は全員独身で同居している。家
族の預金通帳は、母が同一の印鑑で管
理している」
税理士 「印鑑が同一だと名義預金と判断され
ると判例にあるそうだ」
納税者 「たくさん印鑑を作って使い分けるの
は面倒だ。昔から家族の通帳の印鑑は
ひとつにしていたし、それで生活に支
障はなかった」
税理士 「子ら全員が自由に使える状態ではな
かったではないか」
納税者 「使う理由がない。給与から自分の小
遣いを引いては母に預けていた。生活
費はそこから母が工面していたし、子
らも無駄遣いすることもなかった。逆に、
病気がちなので無駄遣いしないよう親
に預金通帳を預かってもらっていた」
税理士 「銀行取引の伝票の筆跡が同一だった」
納税者 「母が一括して管理していたので当然だ。
外交員が書いたものもある」
税理士「印鑑は分けるべきだった」
納税者 「印鑑さえ分けておけば問題はなかっ
たのか?」
税理士「……」
税理士は、その後、説得する術をなくした。税
理士は税務署が示す基準により名義預金になると
説得するばかりだった。これでは税理士が税務署
に代わり顧問先に調査を行っているようなもの
だ。
このようなことが起きる背景には、税理士が資
産税調査に不慣れであることが多いのと、その家
族の在り様に寄り添うという姿勢の乏しさからく
るといえそうだ。
一方、調査担当者は、成績をあげるために決め
付けようとする傾向がある。調査の主眼が名義預
金であるため、財産評価の誤りには目もくれてい
ない。とりわけ若い担当者ほど浅慮が目立つ傾向
にあり、その上司も資産税生え抜きでない人だと
マニュアル対応になりがちだ。判断基準を画一的
に適用しようとし、それに税理士が同調した例だ。
「質問応答記録書」の作成も
この調査で、税務署側がBに求めたものに「質
問応答記録書」への署名押印があった。質問応答
記録書というのはいわば「自白調書」である。従
来、査察などが訴訟維持の資料として「質問てん
末書」を作成していたが、国税庁が質問応答記録
書という統一様式を作成し、一般調査での利用を
促している。
税務調査は申告納税制度のもとで行われる任意
調査であるにもかかわらず、訴訟を前提とした調
書をとるという調査姿勢には疑問がある。質問検
査権は「犯罪捜査」のために認められたものでな
いからだ。
名義預金の帰属をめぐって、最近、税務署が質
問応答記録書の作成を求めるケースが増えている。
逆説的にいえば、自白がなければ名義預金を相続
財産として認定するのは難しいことを表している
ともいえよう。
本件では、質問応答記録書を税務署側が事前に
用意していたこともあり、Bは応じなかった。他
方、その場に立ち会っていた税理士は署名して早
く終わらせましょうと勧めたという。残念な対応
である。とはいえ、名義預金をめぐる裁判では、
質問応答記録書による自白が根拠となっているも
のが多々あることも知っておくべきである。
問われる税理士の対応
本件は、この税理士の対応に不満を抱いた納税
者の相談から筆者が対応したものであるが、受任
して冒頭から手続違反を問題にした。本件の場合、
結果として税理士は違法な手続きを放置したこと
になる。納税者に不利益を招いた場合、損害賠償
請求の対象となりかねないことを理解すべきだろ
う。
適正公平な税負担を求めるのは当然である。し
かし、名義をめぐる判断は時として「冤罪」に結
びつきやすいことも肝に銘じて対応を考えたい。

(税理士新聞2015.01.15掲載拙文)

プロフィール

代表疋 田 英 司

平成17年 大阪国税局退官

疋田税理士事務所開設

平成18年 税理士法人京阪総合会計事務所

開設

●現在の主な活動

税理士業務
(開業支援、経営支援、相続のご相談など)

ボランティア支援

NPO法人の支援

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